フォームローラー は、筋肉や筋膜のセルフケアツールとして広く利用されています。当院でもフォームローラーやその代替品を使用してセルフケアを指導させていただいています。その効果については多くの研究が行われており、以下に各項目ごとに科学的なエビデンスを基に解説します。
【 フォームローラー 】とは?

フォームローラーは、硬い発泡素材でできた筒状の器具で、主に筋膜リリースや筋肉の柔軟性向上を目的として使用されます。自重を利用して筋肉や筋膜に圧力をかけることで、血行促進や筋肉の緊張緩和が期待できます。
フォームローラーの主な効果
1.関節可動域(ROM)の改善についての研究
短期的効果:フォームローラーを使用することで、膝関節の屈曲可動域が即時的に改善されることが示されています。例えば、MacDonaldらの研究では、1分間のフォームローリングで膝屈曲可動域が有意に増加しました 。
長期的効果:複数週間にわたるフォームローリングトレーニングが関節可動域(ROM)の向上に寄与する可能性があります。Konradらの系統的レビューでは、4週間以上のフォームローリングトレーニングがROMの増加に有意な効果を示すことが確認されました 。
2.筋肉痛(DOMS)軽減のエビデンス
2024年の研究では、フォームローラーが運動後の筋肉痛(DOMS)に対して一定の予防効果を示すことが確認されました。特に、24時間以降に痛みの軽減が顕著であり、筋肉痛の評価尺度(VAS)や圧痛閾値(PPT)で有意な改善が見られました 。
また、2014年の研究では、10セットのバックスクワット後にフォームローラーを使用したグループが、筋肉痛の軽減だけでなく、スプリントタイムやパワー、方向転換速度などの動的パフォーマンスの回復にも効果があることが確認されました 。つまり高強度運動後の回復にも効果的であることが示されています。
3.パフォーマンス(筋力・ジャンプ力)への影響
MacDonaldらは、大腿四頭筋に対して60秒×2セットのフォームローリングの実施で、等尺性筋力、筋活動(EMG)、ジャンプ力に有意な低下はみられなかったと報告しています。
Sullivanらはフォームローリング実施後、スプリント速度・ジャンプ高・ピークトルクに変化はなく、動的ストレッチと同等の効果があると報告。
Aboodardaらは筋損傷後(DOMS発生後)にフォームローリングを実施、筋力・ジャンプ高の低下が有意に抑制、圧痛(DOMS)の程度も軽減したと報告しています。
Wiewelhoveらによる21の研究を対象にしたメタアナリシス研究では、フォームローリングはジャンプ・スプリント・筋力のパフォーマンスに統計的に有意な悪影響はなく、回復(DOMS軽減)においては中程度の効果があるとしています。
パフォーマンス維持に有効で、特にリカバリー目的での使用が適していると結論づけています。
項目 | 結果 | 説明 |
---|---|---|
筋力 | 変化なし〜微増 | 筋出力の低下は報告されていない |
ジャンプ高 | 変化なし〜維持 | 有意な低下はない |
スプリント | 安定 | 動的ストレッチと同程度 |
回復 | 有効 | DOMS軽減、2日目以降の筋力維持 |
4.フォームローラーの使用時間・頻度に関する研究
・フォームローラーの効果を最大限に引き出すためには、1回の使用時間を90秒以上とし、に数回の頻度で使用することが推奨されます。特に、4週間以上の継続的な使用が、関節可動域の改善に効果的であるとされています。(MacDonald et al. 2013)
・Cheathamらのレビュー研究で、1回60秒×2セットが柔軟性に効果的であり、毎日行っても問題ない(オーバーユースのリスクは低いと報告されている)と報告しています。
・Wiewelhoveらの報告では1部位につき1~2分のフォームローリングが筋肉痛の軽減と回復促進に有効と結論づけています。
上記の研究をまとめると・・・
1部位あたり:30〜90秒が効果的とされる。(特に60秒以上で効果が出やすいという報告が多い)
セット数は1〜3セットが推奨される。
週3〜5回が有効とされる。(毎日行っても問題ない)
使用部位:ハムストリング、大腿四頭筋、ふくらはぎなどの大きな筋群に対して効果的です。
注意点:骨や関節部分には直接圧力をかけないようにし、痛みを感じる場合は使用を中止してください。
フォームローラーのメカニズム(なぜ効くのか?)
① 神経生理学的メカニズム:フォームローラーは自律神経系の反応を引き起こし、筋緊張を低下させる。圧刺激による疼痛制御(Gate Control Theory)や、固有受容器(GTOや筋紡錘)への刺激が主なメカニズム。(Cheatham et al. 2016)
② 筋膜の粘弾性変化:フォームローリングにより筋膜の粘性が一時的に変化し、滑走性が向上する。これにより可動域の増加や筋肉の柔軟性改善が見られる。(Schroeder and Best 2015)
③ 血流と組織温度の上昇:圧迫とリリースを繰り返すことで局所の血流が促進され、筋酸素供給や老廃物除去が改善される。(Hotfiel et al. 2017)
④ 痛覚抑制:フォームローリングにより一時的に痛みの感受性が低下(圧痛閾値上昇)し、トレーニング後の不快感や筋肉痛(DOMS)が軽減される。(Aboodarda et al. 2015)
メカニズム | 主な効果 | 関連研究 |
---|---|---|
神経生理的調整 | 筋緊張の低下、可動域の改善 | Cheatham et al. (2016) |
筋膜滑走性向上 | 柔軟性・可動域の改善 | Schroeder & Best (2015) |
血流促進 | 回復促進、疲労軽減 | Hotfiel et al. (2017) |
痛覚抑制 | DOMSの軽減 | Aboodarda et al. (2015) |
まとめ:科学的に見たフォームローラーの活用法
フォームローラーの使用により、以下の効果が期待できます。
- 関節可動域の改善:関節の可動域が広がり、動きやすさが向上します。
- 筋肉痛の緩和:運動後の筋肉痛(DOMS)の軽減に効果があります。
- 筋肉の柔軟性向上:定期的な使用で筋肉の柔軟性が改善されます。
- 筋肉の緊張緩和:筋肉のこわばりや緊張を和らげます。
フォームローラーは、関節の柔軟性向上や筋肉痛の緩和に効果的なセルフケアツールです。研究により、その効果が科学的に証明されています。適切な使用方法を守り、日常的に取り入れることで、より健康的な体作りに役立てることができます。
引用・参考文献一覧
- Cheatham, S. W., Kolber, M. J., Cain, M., & Lee, M. (2015).
The effects of self-myofascial release using a foam roll or roller massager on joint range of motion, muscle recovery, and performance: A systematic review.
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PMID: 26618062 - Wiewelhove, T., Döweling, A., Schneider, C., et al. (2019).
A meta-analysis of the effects of foam rolling on performance and recovery.
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https://doi.org/10.3389/fphys.2019.00376 - Nakamura, M., Ikezoe, T., Takeno, Y., & Ichihashi, N. (2021).
Acute and chronic effects of foam rolling on range of motion and muscle stiffness: A systematic review and meta-analysis.
Physical Therapy in Sport, 47, 57–66.
https://doi.org/10.1016/j.ptsp.2020.10.009 - Aboodarda, S. J., Spence, A. J., & Button, D. C. (2015).
Pain pressure threshold of a muscle tender spot increases following local and non-local rolling massage.
BMC Musculoskeletal Disorders, 16, 265.
https://doi.org/10.1186/s12891-015-0748-2 - Behara, B. (2019).
Vibration therapy: A review of the literature.
Journal of Bodywork and Movement Therapies, 23(2), 275–278.
https://doi.org/10.1016/j.jbmt.2018.04.006 - 新潟医療福祉大学 理学療法学科・動作分析研究チーム (2021).
フォームローリングによる関節可動域の変化と脊髄反射興奮性の変化
https://www.nuhw-pt.jp/ - Murray, A. M., Jones, T. W., Horobeanu, C., Turner, A. P., & Sproule, J. (2016).
Sixty seconds of foam rolling does not affect functional flexibility or change muscle temperature in female soccer players.
International Journal of Sports Physical Therapy, 11(5), 765–776.
PMID: 27757285
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