シンスプリント とは?
すねの骨 (脛骨) に沿った痛みは「シンスプリント」と呼ばれ、その領域の組織の炎症によって発生します。
シンスプリントは「脛骨過労性骨膜炎」や「脛骨内側過労性症候群」と呼ばれることもあります。
過労性という言葉からも分かるようにオーバーユース(使い過ぎ)によって起こるスポーツ障害の1種です。
また運動部の新入生や新たな運動を始めたばかりの人に多いことから【初心者病】とも言われています。
Franklyn とOakesの報告1によると足首の動きに関与する【ヒラメ筋】と足の指を曲げる【長趾屈筋】がすねの骨を引っ張ることで炎症が生じるとしています。つまり、これらの筋肉がすねの骨を引っ張ってしまう状況が繰り返されることがシンスプリントの発症に関わってきます。
シンスプリントを引き起こす4つの原因
シンスプリントの発症要因を理解することは、予防や治療の戦略を考える上で重要です。
シンスプリントの原因に関しては専門家の間でも異なる意見が出されており、正確な原因は明らかになっていません。よって現時点多くの研究から明らかになっている4つの原因をお伝えします。
1.偏平足
Hamstra-Wright KLら2の研究では舟状骨(内くるぶしの前下方にある骨)が荷重をかけた時に下に落ち込む度合の大きい人にシンスプリントが多いことが示されています。要するに体重をかけた時に土踏まづが無くなり偏平足になる人はシンスプリントのリスクが高いと言えます。
足の土踏まづは歩行・走行・ジャンプなどの動作で生じる衝撃を吸収する働きがあります。つまり、土踏まづがない偏平足の状態では衝撃を吸収する緩衝作用が働かないため、足からの衝撃がすねにかかりシンスプリントのリスクが高まります。
2.足首と股関節の筋力不足&可動性の低下
様々な研究2.3.4で足首と股関節の動きの悪さがシンスプリントの発症に関与すると報告しています。
Hamstra-Wright KLら2はつま先が下に下がる(つま先を上にあげる筋力不足)と結果として、つま先接地になってしまい、ランニング時にすねの骨に負荷が増加する可能性を示しています。
また、明確なメカニズムは不明ですが、股関節の機能や柔軟性の低下が足の接地に影響を与えシンスプリントの発症に関与していることが示されています。
3.反復的なストレスと負荷
ランニングや他のスポーツ活動によるすねの内側への反復的なストレスや負荷が、シンスプリントの発症原因の1つと考えられています。特にランニングやジャンプ動作が繰り返される【陸上競技】【サッカー】【バスケットボール】【バレーボール】などのにおいて、足の裏にある足底腱膜やすねの内側の筋肉や腱に加わる反復的な負荷が起因しています。
4.過度のトレーニングやランニング
過度のトレーニングやランニングは、筋肉や腱の疲労や微小な損傷を引き起こす可能性があります。特に急激なトレーニングの増加や過度の距離や強度の運動は、シンスプリントのリスクを増加させる可能性があります。
これらの要因が組み合わさることで、すねの内側の組織に炎症や損傷が生じ、シンスプリントが発症します。
シンスプリントを予防するための3つの方法
1.シューズ・インソールの見直し
少し専門的な話になりますが、偏平足は足の土踏まずを構成している骨の配列が崩れた状態を指します。その骨格の崩れの一つにカカトの骨が内側に傾く【オーバープロネーション】という状態があります。このオーバープロネーションを防ぐことがシンスプリントの予防につながります。オーバープロネーションはシューズ・インソールである程度防ぐことができます。
シューズメーカー各社オーバープロネーションに対応したシューズを販売していますので、下記のシューズを参考にシューズの見直しをおすすめします。
asics:GT-1000、GT-2000、GEL-KAYANO
Newbalance:HANZO 、M1040、Fresh Foam X 880
MIZUNO:WAVE INSPIRE
またDebbie6の報告の中でインソールはシンスプリントの予防効果が期待できる数少ない予防法の 1 つであると述べています。しかし、インソールと一言で言っても衝撃吸収や骨格矯正、補高(ヒールリフト)、消臭など目的によって様々なインソールが販売されています。シンスプリントの予防という観点からみると、オーバープロネーションを防ぐための骨格矯正が重要になります。当院ではオーストラリアのfootbionics社のインソールを各種取り扱っており、患者さんの足の状態やサイズに合わせて最適なインソールをご提供いたします。
2.足指トレーニング
シンスプリントの原因の1つに【偏平足】がありました。土踏まずを作り、偏平足を改善して衝撃の吸収ができる足にすることでシンスプリント予防に大切です。
2-1.内在筋トレーニング
1)椅子に座り、台の端から足が出るように置きます。
2)足首を動かさないようにしながら、足指をグーっと握ります。
3)指を握った状態を3秒キープして、元の状態に戻します。
4)2と3の動作を10回を1セットとして、2~3セット行います。
2-2.外在筋トレーニング
1)椅子に座り、台の端から足が出るように置きます。
2)足指と足首をすねの方に引き上げます。
3)足指は持ち上げたまま足首だけ伸ばしていき、足首を伸ばしきった状態で3秒キープします。
4)2と3の動作を10回を1セットとして、2~3セット行います。
2-3.番外編
当院では足指のトレーニングを患者さんに実施していただく際は上の写真のように【フロッグハンド】を使用しています。
フロッグハンドを使用するメリットとしては以下の事が挙げられます。
- 自分の引っ張り具合で張力の調整ができるの効率よく足指のトレーニングができる。またフロッグハンドにはハードとソフトの2種類があり、用途によって使い分けができるのも使い勝手が良い。
- フロッグハンドの先端が4つ又に分かれており、その先端が玉形状になっているので足指を使って掴む感覚を意識しやすい。
3.股関節外転トレーニング
Moenら4はメカニズムは不明とした上で、股関節の可動域の増大・減少の両方がシンスプリントのリスク要因になる可能性を示しています。
股関節は柔軟で可動域が広いだけではシンスプリントの予防には不十分であり、動作の中で股関節を制御する能力がシンスプリント予防において重要であると考えています。また、少し限定的な研究ではありますが、Verrelst6らの研究では脚を外に開く(股関節外転)筋力・機能の低下がシンスプリントのリスク要因であり、これらの筋力・機能の回復が予防につながると示されています。
1)横向きに寝転がって、肘を肩の真下に置き、肘と下側の脚で体を支えます。
2)頭から足までをまっすぐにします。
3)そのままお尻を持ち上げ、上の脚を天井の方へまっすぐ上げます。
4)ゆっくりとお尻と脚を下ろし、2の状態に戻ります。
5)2~4を10回を1セットとして2~3セット行ってください。
まとめ
今回はシンスプリントの予防についてお伝えしました。
シンスプリントは原因が明確に解明されていないため予防がなかなか難しい疾患です。今現在わかっていることを基にできる予防法を継続していきましょう。
参考文献
- Melanie Franklyn ,Barry Oakes.Aetiology and mechanisms of injury in medial tibial stress syndrome: Current and future developments.World J Orthop. 2015 Sep 18; 6(8): 577–589. ↩︎
- Hamstra-Wright KL, Bliven KC, Bay C. Risk factors for medial tibial stress syndrome in physically active individuals such as runners and military personnel: a systematic review and meta-analysis. Br J Sports Med. 2015;49(6):362-369.
- Ruth Verrelst et al.The role of hip abductor and external rotator muscle strength in the development of exertional medial tibial pain: a prospective study.Br J Sports Med2014 Nov;48(21):1564-9. ↩︎
- Moen MH, Bongers T, Bakker EW, et al. Risk factors and prognostic indicators for medial tibial stress syndrome. Scand J Med Sci Sports 2012;22:34–9. ↩︎
- Debbie I Craig, PhD, LAT, ATCMedial.Tibial Stress Syndrome: Evidence-Based Prevention.J Athl Train. 2008 May-Jun; 43(3): 316–318.
- Verrelst R, Willems TM, De Clercq D, Roosen P, Goossens L, Witvrouw E. The role of hip abductor and external rotator muscle strength in the development of exertional medial tibial pain: a prospective study. Br J Sports Med. 2014;48(21):1564-1569. doi:10.1136/bjsports-2012-091710
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